トヨタ「プリウス」のリコール【まとめ】〜Part 1
トヨタプリウスのリコール案件を国土交通省の届出から記事にまとめました
また整備管理者としてプリウス(営業車)を10年・40万キロ以上にわたって点検・整備・管理してきた経験の話も交えて記事を書いていきます
クルマのユーザーの中にはクルマに詳しくない方も多いと思います、ましてや部品名や修理内容に関しては尚更、わからない方も多いと思います
そのような方達にも出来るだけ、わかりやすく一つ一つ、解説しながら記事を書き進めていきます、プリウス以外の車種を使用されている方でも参考になる部分があると思います
是非、ご覧になってみてください(目次をクリックすると読みたい記事に飛びます)
リコール制度とは…
まず「リコール制度」とは何かを説明します
国土交通省のホームページには…
※「リコール制度」とはクルマやバイクの設計、製造過程において問題があったために自動車・バイクメーカーが自らの判断により、国土交通大臣に事前届出を行った上で回収・修理を行い、事故・トラブルを未然に防止する制度です
と記載されています
そして、国土交通省はリコールの届出の過程において、以下のような役割を担っています
- 不具合情報の収集・分析
- メーカーのリコールへの取組状況の調査
- 取組状況が不適切であれば指導又は監査等
- 届出内容が不適切であれば改善指示
- メーカーが自主的にリコールを行わず、かつ、事故が頻発している場合には勧告・命令
また、リコールの届出があった時には、プレスリリース(報道発表)を行うと同時に、国土交通省のTwitterアカウントや審査・リコール課のGoogle+公式アカウントにおいて情報発信を行なっています
このリコールの一連の流れの中で、私たちクルマのユーザーからの故障やトラブルなどの車の不具合の情報は大変重要な役割を果たしているとされ
これらの情報によりリコールの敏速かつ確実な実施を行うことができると国交省のホームページでも案内されています
クルマの不自然な異常や故障、メーカーやディラーのクルマの修理内容に関する件で違和感を感じた場合には相談されても良いのではないでしょうか…
国交省への通報サイトは以下になります
プリウスのリコールに付いて
ハイブリッド車として電子機器やコンピューターを各所に取り付けられている「プリウス」は他の車種と比べてもリコール案件の多い車種です
その様なプリウスのリコールの届出について、時系列で見ていきましょう
10・30・40系プリウスのリコール案件
平成22年02月09日〜届出
プリウス30系「ABS制御コンピューターのリコール」
届出内容・症状
ABS(アンチロックブレーキシステム)の制御プログラムが不適切なため、ABS作動完了後の制動力が作動直前の制動力より低下することがある
そのため、ブレーキをかけている途中に凍結や凹凸路面等を通過してABSが作動すると顕著な空走感や制動遅れを生じることがあり
そのまま一定の踏力でブレーキペダルを保持し続けた場合には運転者の予測より制動停止距離が伸びるおそれがある。
深掘り解説
ブレーキを強く踏んだ時にタイヤがロックするのを防ぐ為の装置、ABS(アンチロックブレーキシステム)の制御プログラムの書込み設定ミスのため、ABS作動完了後のブレーキ制動力がブレーキ作動直前の制動力より低下することがあるという
その事により、ブレーキ作動中に凍結路面や凸凹路面などを通過した場合にABSが作動すると顕著な空走感(ブレーキが効いてない様な走行感)やブレーキの制動遅れが発生することがあり
更に、そのまま一定の踏力でブレーキペダルを保持し続けた場合、運転者の予測する制動停止距離を伸びて停止する可能性があるとの事でリコールの届出がされた事例です
改善の内容
- 全対象車両の当該制御プログラムを修正する
- (※部品交換ではなく制御プログラムの書換えによる修理)
- 制御プログラム修正までの間の運転時の注意事項を使用者に周知する。
- プリウス(PHV)、SAI、レクサス HS250h の3車種については、対策プログラムが準備でき次第、当該 制御プログラムを修正する。
- 【※使用者への通知内容〜運転時の注意事項 】
- 1〜空走感や制動遅れを生じた場合は、ブレーキペダルを踏み込むことをお願いする。
- 2〜ABS作動時は、ブレーキペダルを素早く強く踏み続けることをお願いする。
- ※対策済識別〜改善済車両にはエンジンルーム内の右サスペンションタワー上部に黄色ペイントを塗布する。
平成23年06月01日〜届出
プリウス10系「ステアリングギヤボックスのリコール」
届出内容・症状
電動式パワーステアリングギヤボックスにおいて、ハンドルを強く一杯に切るような操作を繰り返すと、ピニオンシャフト固定用ナットが緩むことがある。
そのため、そのまま使用を続けると、ピニオンシャフトが固定できないためにモータの力が十分伝達されずハンドルが重くなり、最悪の場合、ハ ンドル操作ができなくなるおそれがある
深掘り解説
ハンドル操作の回転運動をステアリングシャフトを介して横方向に変換してタイヤを左右に動かす装置がステアリングギヤボックスです
プリウスはモーターによる電動式のパワーステアリングを採用しており、電動モーターも一体でステアリングギヤボックスに取り付けられています
ステアリングギヤボックス内のピニオンシャフトの下部にある固定ナットがハンドルを強く一杯に切る操作を繰り返す事により固定ボルトが緩みそのまま使用すると
ピニオンシャフトが固定できなくなりモーターの力が充分に伝わらずハンドルが重くなり、最悪の場合にはハンドル操作ができなくなるとのリコールです
モーターにより回転するピニオンシャフトには通常でもかなり強い力がかかります、ハンドルを強く一杯に切ることを繰り返すと支点である固定ナットに想定外の力がかかり緩む原因になったのでしょう
固定ナットをロック式にする事により緩みを改善できるという事です
改善の内容
- 全対象車両の当該ナットをかしめナットと交換する
- 対策済識別〜改善済車両にはエンジンルーム内にあるネームプレート上側に黄色ペイントを塗布する
平成25年06月05日〜届出
プリウス30系「電子制御ブレーキのリコール」
届出内容・症状
電子制御ブレーキシステムにおいて、アキュームレータ(蓄圧機)の強度検討が不足していたため走行時の上下振動により蓄圧容器の一部に大きな力が加わることがあり
※蓄圧機とは〜液体の圧力を蓄えておく装置(ブレーキオイルなど)
そのために、使用過程で当該容器に疲労亀裂が入り、容器内のブレーキフルードに窒素ガスが徐々に侵入して、ブレーキペダルの踏みしろが増加し、制動力が低下する恐れがあるとの事
深掘り解説
プリウスは回生ブレーキシステムなどが装置されている為に、ブレーキフルードがポンプにより蓄圧されアキュームレータに注入されています
※フットブレーキペダルはブレーキ制動をON・OFFするだけのスイッチの役目をしているだけに過ぎません
ブレーキフルードの蓄圧がかかったアキュームレータに走行中の振動で上下運動がかかり蓄圧機内の一部(左下図)に大きな力がかかる場合があり
当該箇所に亀裂が入り側壁に注入されている窒素ガスがブレーキフルード内に侵入してブレーキペダルの踏みしろが増加し制動力が低下する可能性があるとの事
※ブレーキ配管内にエアが入った状態に近く窒素ガスのため配管内で膨張してブレーキペダルを踏んでも踏みしろが増加してブレーキは全く効かない状態になるのでしょう
こちらもプリウス30系に乗られている方でこのような症状がある方や、右下記の対象車両になっている方はディラーなどに相談されてみてください
新車時から乗られている方にはリコールの案内が届いているかもしれませんが…中古車で購入された方や友人などから譲り受けた方などは一度、ディラーなどで確認された方が良いでしょう
改善の内容
- 全対象車両のアキュームレータの確認し、該当するものは対策品のアキュームレータが組み込まれたブレーキブースターポンプと交換
- ※対策済識別〜エンジンルーム内の左サスペンションタワー上面に黄色いペンキを塗布する
平成26月02月12日〜届出
プリウス30系「ハイブリッドシステムのリコール」
届出内容・症状
ハイブリットシステムにおいて制御装置が不適切なために、加速時などの高負荷走行時に昇圧回路の素子に想定外の熱応力が加わることがある
※昇圧回路とは〜電圧を上昇させる回路
※素子とは〜電気回路や機械回路で、その構成要素として全体の機能に重要な役割をもつ個々の単位部品
※熱応力とは〜物体が温度変化による膨張や収縮を外部的な拘束によって妨げられたときに、物体内部に生じる応力
その為、使用過程で当該素子が損傷し、警告灯が点灯して、フェールセーフのモーター走行になり、また、素子損傷時に電気ノイズが発生した場合、ハイブリッドシステムが停止して走行不能になる
深掘り解説
ハイブリッドシステムの制御装置の設定ミスのために加速時などの負荷が多くかかる、場面で電圧を上昇させる回路の電子部品が熱変化により損傷してしまい
そのために警告灯が点灯して燃料が充分に供給されず、エンジン出力が上がらずに、モーター走行状態になる
※この時点で速度は10〜20キロほどしか出ない状態になると思います
更に、ハイブリッドシステム制御装置内の回路の部品が損傷する時に電気ノイズが発生した場合、ハイブリッドシステムも停止して走行不能になるということです
プリウス20系でも体験
※私が営業車の整備管理者の業務をしていた当時、プリウス20系がこれと同じ症状でディラーに修理依頼をしたのですがリコール対応にはなりませんでした、走行距離が30万キロ以上なのとプリウス30系のみが対象との事でした
症状は前記したものと同じです、走行中に突然、スピードが出なくなりHV警告灯が点灯して自社工場に入庫したと言う状況でした
コンピューター診断機で診断した結果、HVシステム異常のコードが出て(故障コードは忘れました)いろいろ調べたのですが…故障箇所の判定が出来ずにディラーに修理依頼することにしました
その後、エンジンルーム内のHVモータージェネレーターのモジュール内部の損傷が原因との事でディラーから連絡があり、当該部品を交換して直りました
下図を見て頂ければお分かりと思いますが、エンジンルーム内のHVシステムの下の奥張ったところにありかなりの高温にさらされる箇所になります
高温に弱い電子機器がエンジンルーム内にも多く使われているプリウスの弱点でもある故障内容です
プリウス30系に乗られている方でこのような症状がある方や、右下記の対象車両になっている方はディラーなどに相談されてみてください
新車時から乗られている方にはリコールの案内が届いているかもしれませんが…中古車で購入された方や友人などから譲り受けた方などは一度、ディラーなどで確認された方が良いでしょう
改善の内容
- 全対象車両の制御ソフトを対策仕様に修正する
- 制御ソフト修正後に素子が損傷して警告灯が点灯した場合には電力変換器(DC-ACインバーターのモジュールを無償交換する
- ※対策済識別〜改善済車両には車体番号打刻位置の左側に黄色ペイントを塗布する
平成27年07月15日〜届出
プリウス40系「ハイブリッドシステムのリコール」
30系と同じ 発生状況・症状
ハイブリッドシステムにおいて、制御ソフトが不適切なため、電力変換器(D C-ACインバータ)の昇圧回路用素子が熱応力で損傷することがある。
そのために警告灯が点灯しフェールセーフのモータ走行となり、素子損傷時に電気 ノイズが発生した場合には、ハイブリッドシステムが停止し、走行不能となるおそれがある。
深掘り解説
このリコール案件はプリウス30系のハイブリッドシステムのリコールと同じ内容です
※詳細はプリウス30系のリコール案件を参照して下さい
エンジンルーム内に取り付けられているハイブリッドシステムのモーターモジュールの精密機器・電子部品が高温による熱膨張を繰り返し損傷するということです
プリウス30系のリコールがあったので改善したのかもしれませんが…まだ完全な改善ではなかったのでしょう
プリウス20 系から続くこの、モーターモジュールの電子機器の不具合は電気とガソリンを共用で動力として使用するプリウスの弱点の1つなのではと思います
電子機器・部品を如何に熱変動から守るかがメーカーの課題にもなっているのでしょう
プリウス40系に乗られている方は以下の車体番号確認と対策済識別を確認されて、対策がまだの車両に関しては異常がなくてもディラーに相談しましょう
改善の内容
- 全対象車両の制御ソフトを対策仕様に修正する。
- 制御ソフト修正後に素子が損傷して警告灯が点灯した場合は、電力変換器のモジュールを無償 交換する。
- 対策済識別〜改善済車両には車台番号打刻の末尾の右に黄色ペイントを塗布する。
平成28年06月29日〜届出
プリウス30系「燃料蒸発ガス排出抑制装置のリコール」
届出内容・症状
燃料蒸発ガス排出抑制装置において、蒸発ガス通路(樹脂製)の端部形状が不適切なため、使用過程で当該端部に亀裂が発生することがある。
そのため、 長期間使用を続けると亀裂が貫通し、満タン時に燃料が漏れて、燃料臭がする おそれがある
深掘り解説
燃料タンク上部に取り付けられた、燃料蒸発ガス排出抑制装置の蒸発ガス通路(樹脂製でできた)の端部の形状が不適切な構造のため、使用過程で当該、樹脂製端部に亀裂が発生する場合があり
そのまま使用を続けると亀裂部が大きくなり貫通して、満タン時に燃料が漏れて、燃料臭が発生する場合があるとのリコールです
届出には燃料臭がする、恐れがあるとだけの記載ですが…
ガソリン漏れは燃料臭がするだけではなく、場合によっては排気管などに付着して引火し車両火災に至ることもあります
対象車両は速やかに対策改善される様にしましょう
改善の内容
- 全対象車両の燃料蒸発ガス排出抑制装置を対策品と交換する。
- 対策済識別〜改善済車両には車台番号打刻のハイフン下部に黄色ペイントを塗布する
まとめ
資料を張りつけての記事になったので長くなってしまいました…
ここまで読んで頂きありがとうございます…
プリウスのリコール案件に付いて書いて来ましたが、読者の皆様の中に該当になっている案件はありませんでしたか?
トヨタプリウスのリコールに関してクルマメーカーから国土交通省に届出が報告された例はまだまだ、沢山あります
クルマのリコールに関しては人命に関わる重大案件となる為に、一部、例外を除いて使用年数・走行距離数に関係なく無償修理が原則です
ご自身が乗られていて、気になるような案件がありましたら、ディラーや国土交通省に遠慮なく相談されてみるのも良いと思います
また、プリウス以外の車両に関してもたくさんのリコール案件の報告が出されています、それらに付いてもシリーズ化してわかりやすく記事にまとめていきます
ではまた次回の記事でお会いしましょう