不具合連鎖「プリウス」リコールからの警鐘〜読書レビュー「前編」
まえがき
リーマンショック後の2009年世界の自動車業界はなかなか脱出することができない不況にあえいでいた
そんな中でトヨタは9,000,000台近い新車を販売し米GM社を抜いて世界最大の自動車メーカー となった
さらにトヨタは2009年5月に販売を開始したハイブリット車の新型プリウスを市場に投入したプリウスはハイブリットながら2,050,000円と言う衝撃的な価格を武器に発売されいきなり日本国内の新車販売台数で1位に躍り出た
そんな中で事件は起きた…
本書の書き出しはこんな風な感じで始まる
内容はトヨタプリウスを含むトヨタのハイブリッド車のアクセルペダルが戻らず重大な事故が発生したアメリカや日本でトヨタのハイブリッド車に関するリコール問題を取り上げた書籍です
当時のことをご存知の方も多いと思います
連日テレビや新聞で報道され話題に上った事は私の記憶にもまだ鮮明に残っていますトヨタは初期対応を誤りリコール問題が深刻化していきます
さらに輪をかけるようにアクセルペダルのリコールに続いてブレーキの効きが悪いと言うユーザからの苦情も多発しリコール対応にすべての神経を使う羽目に陥ってしまいます
トヨタのリコール案件はまだまだこれでは終わりませんでした次のリコールはパワーステアリングの効きが悪いと言う苦情が多発することになったのです
車の本来の役割であるところの「走る・曲がる・止まる」すべての部分でリコール案件が発生したことになります
当時は表面的な事故の内容や映像に関してはこぞって報道されましたが根本的な原因や対策に関しては詳しく報道はされませんでした
今回この本を書いた筆者はその辺のことを詳しく調査解説し本書にまとめて記載しています
いったいトヨタはどうやってこの危機的状況から這い上がったのでしょうかその辺も含めて一緒に見ていきましょう
本書の目次を紹介します
- 第1章~それは1本の電話から始まった
第2章~アクセルペダルの不具合はなぜ起こったのか
第3章~ブレーキの不具合はなぜ起こったのか
第4章~リコールはなぜなくならないのか
第5章~自動車メーカーはリコールとどう向き合ってきたのか
第6章~識者12人はリコール問題をこう見る
章毎に内容を要約するとともに元整備管理者として気がついたことなど について意見をつけ加えると同時に難しい文章や専門用語などは解説していきたいと思います
第1章〜それは1本の電話から始まった
プリウスのアクセルペダルが戻らないリコール案件はアメリカから始まったのだがこれに関連する事故はその前から起こっていたのです
その事故とは2009年8月28日カリフォルニア州でレクサスES350がスピードを上げたまま200キロ近い速度で暴走し交差点に突入し 外壁に衝突し 車が大破して乗っていた 4人が死亡すると言う 重大事故が発生もしてしまったのです
その事故を起こした車の後部座席に乗っていた人物が暴走してる車内から911に緊急通報してまさに事故が起きた瞬間に911の担当職員と電話で話をしていたのです
911緊急通報への1本の電話
- 911担当者「こちら911緊急通報です」
通報者「アクセルが戻らないトラブルだ!ブレーキが効かない!」
911担当者「了解、車を止めることができないんですね」
通報者「交差点に近づいている!交差点に近づいている!つかまって祈って」
その後、衝突音とともに電話が切れたと言うことです
さらにその 実際の 生々しい 内容が全米でテレビ放送され大変な 反響 となったのです
さらにトヨタは初期対応を誤り車の使用者の使用上の欠如から来た事故であると主張したのだがそれが火に油を注いだ格好になってしまった
おとなしい日本国民と違いアメリカ国民はそんなことでは黙っていない
最終的にこの事件でトヨタは3,800,000台と言う過去最大規模のリコール台数となりフロアマットやアクセルペダルの構造変更をした改良品と交換することになった のでした
ただしこの事故のその後の調査でこの事故を起こしたレクサスは修理中の代車でフロアマットも別売品のものが装着されていたことがわかったとの事です
トヨタの調査が裏付けられた結果となり一見落着したように見えたのだが…
一本の電話は序章でしかなかった
そうしてる中でレクサスに続いてプリウスも同じようなアクセルペダルが戻らなくなると言う報告が相次いだ
この事象はレクサスと違いフロアマットに引っかからなくてもアクセルペダルが戻らないと言う症状が出たと言うことである
第2章 〜アクセルペダルの不具合は何故起こったのか
読者のみなさんはアクセルペダルの不具合っていうのはどのようなことなのかまた不具合が起こる可能性としてどのようなことが考えられるかお分かりになるでしょうか
例えば私が元整備管理者として想像するとしたらアクセルペダルの可動部がすり減って変形して何らかの状態で引っかかってペダルが戻らないとかペダルを戻すためのスプリングが破損したり欠損したとか可動部が油ぎれを起こして動かなくなったとかといったことを想像します
また前記したようにアクセルペダルがフロアマットに引っかかり戻らなくなったのではないかと思います、車に少し詳しい方であればアクセルペダルの不具合について同じように想像するのではないでしょうか
電子制御化されたアクセルペダルの盲点
しかし本当の原因は私が想像した原因をはるかに超えて複雑だったのです
プリウスなどのハイブリット車または電子制御されている今日の車に関してはアクセルペダルもスイッチとしての働きしかしていないと言うことをまず知っておくことが必要です
どういうことかと言うと従来であればアクセルペダルとエンジンルーム内のキャブレター(空気と燃料を混合させるための気化器)は鋼製のワイヤーで繋がれドライバーがアクセルペダルを踏むことによってダイレクトにワイヤを介してキャブレターへつながりアクセルレスポンスを発生させる構造になっています
ところが今日ではこのアクセルペダルがスイッチの役目しかしていないのです
- 「アクセルペダルモジュール」
- 問題になったプリウス用ではありませんが
- ご覧のように鋼製のワイヤーを取り付けるようなところもなくただ単にスイッチとしての役目をするための構造になっています
- ワイヤーの取り回しや接続を気にしなくても良いために配線さえ接続できればどこにでも取り付けることができます
- 大げさに言うとスライドスイッチ風にして手で操作するように作ることもできると言うことです
要するに鋼製のワイヤーがなくなりアクセルペダルの踏みしろをセンサーが感知して電気信号に変えコンピューターに送りコンピューターは廃止されたキャブレターの代わりに装備されているスロットルボディー(シリンダー内に供給する空気量を制御する装置)とダイレクトインジェクター(燃料噴射装置)に電気信号として指示を送りアクセルレスポンスを発生させる構造になっているのです
少し難しい説明だったかもしれませんが上記のような構造になっていると言うことを理解していただければと思います
さてここまでアクセルペダルの基本的な説明をしてきましたが、この後はアクセルペダルの不具合(アクセルペダルが戻らなくなった不具合)について深掘り解説をしていきたいと思います
プリウスのアクセルペダルは電子制御化されスイッチとしての役割しか持っていない構造となっていると説明しました
その構造と言うのはペダルをふむ踏みしろによってペダルの重さが重くなるように人工的に作られた構造になっているのです
- 上図がCTS社製のアクセルペダルモジュールアッセンブリーです
- ①の部分を拡大した図が真ん中と右側です
- 真ん中が対策前、右側が対策後の図になります
- 部品aと部品bの⑧と12が支点となりそれぞれの部品が動きます
- ②のアクセルペダルを踏むことにより③と④に掘られた溝の幅は徐々に狭くなります(⑤・⑥拡大図参照)
- 対策前の状態でアクセルペダルをいっぱいに踏み込むと10と11が噛み混みすぎて溝の赤い点の4カ所で摩擦が多きくなりペダルの戻りが悪くなります
- 図⑦の位置にシム部品を挟み込みアクセルペダルがあまり深くまで入り込まないように対策しています
- ⑤と⑥の拡大図は上部から見た状態です
※構造が難しくて説明しづらいのですがわかっていただけたでしょうか
これは従来の鋼製のワイヤーを使用したアクセルペダルに慣れたドライバーにも違和感なく使用できるように工夫された構造にするためにあえて作られたものです
そしてこの構造が不具合を起こす原因になったのです
スイッチとしてのアクセルペダルの構造は溝のある2枚の構造物を組み合わせペダルが奥にいくにつれて溝が狭くなり摩擦が大きくなり抵抗を大きくするこの構造により奥に強く踏んだときに溝同士が挟まってしまいアクセルペダルの戻りが悪くなってしまい特に市街地走行の多いタクシーなどの車両やその他のアクセルペダルの使用頻度が多い1部の車両に発生すると言う調査報告がされました
以上が根本的なブレーキペダルの不具合の原因と言うことです
どうでしょうかお分かりになっていただけたでしょうか?かなり頑張って車に詳しくない方にもわかるように説明したつもりなのですが…説明不足と一般の方には少し理解が難しいお話だったかもしれませんがご理解いただければ幸いです
さらにこのブレーキペダルの不具合を大きな問題にさせた根本的な原因がもう一つあったのです
部品の共通化と一極集中の弊害
従来であればこのタイプのアクセルペダルの製造はDENSOと言うことになるのですが米国での現地生産と言うことで部品メーカーであるCTS社、一社に集中的に製造委託していたとのことですさらに欧州向けや中国向け用にも製造されていたとのことです
このようなことを行ったのにはやはりコスト削減を行うために一括大量発注と言う目的があってのことです
確かにコスト削減にはなるのですが一括大量発注をした場合に万が一にも今回のようなリコールが起こると大規模な修理回収作業が必要になりメーカーにかかる負担は想像を超える大きさになります
従来であればリスク回避を考えて数社に分散して発注するのですがそれをトヨタは一時期おろそかにしてこのような事態を招いてしまったものと思います当然のように日本で販売しているトヨタの車種にはデンソー製のアクセルペダルを使用しそのような不具合は発生しなかったのです
何故か…デンソー製のアクセルペダルは外見が同じでも内部構造がCTS社と全く違う作りになっているからです
リコールから学んだ今後の対策
当時トヨタ副社長の佐々木氏は今回のようなリコールを起こさないために今後の対策として以下のようなことを重点的に実施すると言うことを 記者会見で 発表した
- 1~リコールに至った要因や前者の品質を検証・展開することを設計・製造・販売・サービス等のすべての工程において間違いがなかったか再点検をする
- 2~各地域での顧客の声や品質情報の収集能力を高めて現地現物を充実させる
- (具体的に各地域の技術分室を増強する)
- 3~品質管理の専門家を育成する
- (主要地域で品質教育機能を強化するために専門の機関を設置する)
- 4~上記の取り組みを採用した新たな品質管理体制について外部の専門家に評価を依頼する
- 5~各地域の政府行政機関とコミニケーションを取る頻度を高める
- 6~ユーザの声に対して24時間以内に現地に出向いて不具合を一件ごとに調査できる体制を目指す
バックアップ装置としての「ブレーキオーバーライド機能」
さらにトヨタは欧州では当たり前に装着されているブレーキオーバーライド機構を装着されていないことを強く指摘され今後販売される新型車には全て標準装備として装着する方針であると言うことを発表した
※ブレーキオーバーライド機能とはアクセルとブレーキが同時に 踏まれた場合にブレーキを優先する機能でフロアマットなどにアクセルペダルが引っかかった場合だけでなくアクセルペダルの戻りが不完全な場合に対しても有効でブレーキ制動力の方が優先すると言う構造になっているものです
ブレーキオーバーライド機能はこのようなことを考えるともっと早く国産車でも標準装備として取り入れておいてもよかったのではないかと考えます日本車の技術は進歩しているとよく言われますがこのようなことを考えるとまだまだ欧州車には追いつけない技術的な部分と安全面での意識の違いがあると言うことなのでしょう
第3章〜ブレーキの不具合は何故起こったのか
今度は日本国内 で使用されている プリウス のブレーキに不具合 が発生したのです
2009年 5月に発売された 新型プリウス30系において ブレーキの効きが悪い というユーザーからの声が 国土交通省の 相談窓口に 50件以上 苦情が寄せられ たとのことです
そしてこの不具合に関してもトヨタはまたまたユーザーを裏切り火に油を注ぐようなことをしていたのです
具体的に言うとトヨタはユーザーからの苦情が出る前からこのブレーキの効きの悪い不具合を把握していたのだ
それにも関わらず ユーザーに詳細を知らせることなく特別キャンペーン等と言う謳い文句を作りキャンペーン特典などを目当てに修理や車検などで入庫した車などだけに関してコンピューターの書き換え作業をして電子制御のセッティングを変更していたことが後になって発覚したのでした
この事で結局 話が大きくなり 結局最高責任者である 豊田社長が お詫びの会見を行い さらに大規模リコールを実施するに到ってしまったのです
この プリウスの ブレーキの効きが 悪い という件に関しては 話が非常に複雑で技術的にも大変難しくプリウスのような コンピューターや 電子制御機器で 武装した 車両で特に 起こりやすい不具合 とも言える
プリウスはブレーキ制動力を電気に変える回生ブレーキを使用している さらにプリウスのブレーキは ブレーキペダルが スイッチの役目をしてるだけであって ブレーキの 制動力 を発生させる 原動力はモーター(ポンプ) なのです
このようにプリウスのブレーキはブレーキペダルを踏んだからといってその力が直接的にブレーキオイルの圧力を上げて 制動力を発揮するといったシステムではないのです
さらに現在では 標準装備となっている ABS が取り付けられています
どういうことかまとめると プリウスのブレーキ 関連 装置には …
- 1-回生ブレーキ
- 2-スイッチとして だけのブレーキペダル
- 3-ABS 装置(アンチロックブレーキシステム)
上記の三つの組み合わせが ブレーキ操作時に複雑にからみあって コンピューター制御され ブレーキの制動力 となって 車が停止する 仕組みになっているのです
トヨタが国土交通省に提出したプリウスなどの1連のブレーキの不具合によるブレーキの効きが弱いと言うリコール案件の原因と対策の報告書です
改善策としてブレーキ制御プログラム等の修正が行われますと記載されています
回生ブレーキ・ポンプ起動によるブレーキオイルの圧力保持・そしてABSと複雑に制御されてブレーキ系統ができています
この制御が難しく 不具合 として発生したということです この件に関しては 事故が発生したとか 怪我人が出た ということではなかったので トヨタ自体が最初から 隠蔽することなく コンピューターの書き換え作業を実施する旨を 広くユーザーに伝え さえすれば リコールになることも なかったのです
トヨタに限らず 隠蔽体質 の企業が日本には まだ多くあるように思われますしかし 今日のように インターネットが普及し SNS で情報 が 拡散されるような 世の中にあっては もはや 不具合や リコールを 隠して 商売できるような 状態ではないということを 企業はもちろん 官公庁 でさえも 肝に銘じて 仕事に当たるようにされた方が よろしいのではないかと思います
分かりやすく言うと 「正直な商売をしろ」 ということです
以前記事にした渋沢栄一さんの 精神「 論語と算盤」ですよね
私は今回この「トヨタ・プリウスのリコール案件」に関して技術的・構造的な面から読書レビューをし解説してきましたがこのリコール案件について道徳的・法律的な面から記事を執筆している方がおられます
私が尊敬する元東京地検検事で現在、弁護士をしておられ、マスコミなどでも活躍している郷原信郎さんが日経ビジネスのインターネット版にとても詳しく寄稿している記事があるのでそちらも紹介しておきます
まとめ
「不具合連鎖〜プリウスリコールからの警鐘」を読んだレビューを記事にしてみましたがプリウスのリコール関連の解説記事いかがでしたでしょうか
一般の方が本書を読んだとしてもなかなか理解できない部分をできるだけ簡潔にわかりやすく解説したつもりです
車の構造を説明するのは結構難しく構造自体が複雑なこともあり理解するのに難しい箇所も多々あったと思います、また説明不足の部分もあったかと思います
最低、全体的な構造を感じ取っていただき少しでも理解いただけたのであれば良いのかもしれません
今回は前編と題して第1章から第3章までの読書レビューを記事にしました
次回、後編は第4章から第6章のレビューをまた記事にします、後編ではリコールはなぜなくならないのかまた自動車メーカーはリコールとどのように向き合ってきたのかそして識者に車のリコール問題について論じて頂いた内容をまとめてレビューしたいと思います
最後まで読んでいただきありがとうございます
ではまた別の記事でお会いしましょう